※この記事は、Terra RebelsのメンバーであるEdward Kim氏(@edk208)が2022年10月15日公開した記事『Terra Classic Proposal 5234(Terra Classic 提案5234)』の内容を日本語訳した記事となります。
提案5234の問題点
最近、コミュニティメンバーのAkujiro氏(@Akujiro2)によって投稿された 提案5234 が多くの反響を呼んでいます。
提案5234は、オンチェーン(on-chain)でのTaxを1.2%から0.2%に引き下げ、徴収した シニョレッジ の10%をエポック終了時にコミュニティプールに追加することを目的としています。
この提案に対する私の判断を説明する前に、コミュニティのメンバーであるAkujiro氏に感謝の意を表し、彼の仕事を賞賛したいと思います。私はこれこそがガバナンスのあるべき姿だと考えています。コミュニティの誰もが、エコシステムに十分に関わり、エコシステムに有益だと思われる政策を提案し、それについて何かを行うべきです。
とはいえ、提案5234で投票されているのは本質的に2つの問題点だと思いますので、それぞれの提案に分けていくつかの考えを述べたいと思います。
10%のシニョリッジを徴収について
まず、10%のシニョリッジがコミュニティプールに送られることについてです。
一般的な言葉の定義として「シニョリッジ」とは、その通貨が生産コストよりも高い価値を持つ場合に政府が得る収入のことを指しますが、Terraではショニリッジをステーブルコインのための法定通貨など外部担保を取得するコストと表現しています。
「通貨発行益 = 新しく鋳造された通貨 - 担保を獲得するためのコスト」
ディペグが起きる前のショニリッジは、LUNAをUSTにスワップすることで、LUNAをバーンしてUSTをミント(鋳造)することでした。
そのバーンされたLUNAはシニョリッジに記録され、エポック終了時にミントされることになる報酬パラメータに基づき、ミントされたシニョリッジの一部はオラクル報酬プールに、一部はコミュニティプールに還元されます。
columbus-5の導入に伴ってオラクル報酬プールは永続的なバーンに置き換えられたため、現在ではシニョリッジの分配は永続的なバーンとコミュニティプールの間で行われるようになっています。
暴落の際にLUNAとUSTの間のスワップが無効になり、LUNC全体のバーン運動が始まると、シニョリッジは別の意味を持つようになりました。現在では、シニョリッジは「最後のエポックで燃やされた総供給量」を表していると考えることができます。これは記録された古い総供給量と新しい総供給量を差し引き、エポック後(約7日後)に計算されます。
報酬パラメータは 0-1 の間の数値で、各エポックにおける通貨価値のうち、どの程度がコミュニティプールに振り向けられ、バーンされるかをパーセントで表したものです。1.0という値は、各エポック終了後に100%の通貨がバーンされることを意味します。
ですが、エポック終了時にバーンされたトークンは全てすぐに再ミントされ、またすぐにバーンされます。つまり、正確には報酬パラメータが0.9または90%バーンに設定されていても、一見すると1 週間は100%バーンの設定として機能していますが、そのバーンの10%をミントバックすることを意味します。
もうひとつ認識しておいてほしいのは、あなたはエポック期間中の総バーン量の90%をバーンするよう投票しているということです。
このバーンは、オンチェーン Taxの結果として発生したものだけでなく、バーンウォレットに送られた手動バーンも含まれます。その結果、この提案が通過した場合、LUNCのバーンチャートで緑の「ミント」キャンドルが表示されても警戒する必要はありません。
これは単にシニョリッジが機能する仕組みに過ぎません。チェーンの資金を調達する必要があることはこれまでにも書いてきました。コミュニティプールは、緊急資金、dApps やプロジェクトをチェーンに呼び戻すこと、チェーンを改善するために開発者に支払うことなどに使用することができます。
私は 0.9 のパラメータ変更に賛成票を投じます。
Tax Burnの1.2%から0.2%へ引き下げについて
さて、ここからはより議論を呼びそうな「オンチェーンTaxを1.2%から0.2%に引き下げる」という変更点についてです。
私は経済学者ではないので、このパラメーターの変更がチェーンの流動性、トラフィック、価格にどのような影響を与えるかについて予測することはできないことを前置きした上で説明をしたいと思います。
しかし、私は最適化(特に機械学習による最適化)の専門家ですので、その知識をもとに判断をしています。
【LUNC】税率引き下げ&貢献者への支援|Akujiro
この記事はAkujiro氏によって公開されたProposal:5234『税率を0.2%に引き下げ&開発者たちへの支援』の内容を日本語訳した記事となります。貢献者たちへの資金支援をし、Terra Classicの開発をすすめる提案です。
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減税の議論
私は、Taxに対して肯定的な意見と否定的な意見の両方を多くの人から聞いてきました。賛成派は「現在の税率は法外に高く、減税することでオンチェーンの流動性が回復する」ものと考えています。
また彼らは、高いTaxのためにチェーンを閉鎖したり、戻ってこなかったりしているプロジェクトやdAppsの例を1つか2つ挙げています。私も個人的に、少なくとも1つのプロジェクトがdAppで複数のホップを行い、その結果何度も課税されていることを知っています。
私はこれらのプロジェクトに同情していますが、この批判の影響を客観的に評価することは困難です。なぜなら「減税派の人々が自分たちの主張を通すために"高いTaxが原因で閉鎖した"とされるプロジェクトを選んでいるだけかもしれない」という可能性があると思うからです。
私は、他のプロジェクトがうまく移行し、チェーン上で迷うことなく構築作業を行っていることも理解しています。
0.2%の減税によってチェーン上の取引量が増えるという議論については論理的な議論だと思いますが、私はそれほど大きな違いが出るかどうか非常に懐疑的です。
さらに、新しい バリデーター が戻ってくれば、バリデーターが新しいデリゲーター(ステーキングするユーザー)を集めるので、当然オンチェーンでの取引量は上昇すると思います。
しかし、取引量の増加はチェーン上の新しいユーティリティのアンロックと混同されるため、この提案のタイミングでは正確に測定できない可能性があります。
1.2%税率を維持するための議論
Taxを維持する側の主な主張は「十分なデータがなく、軌道修正するには時期尚早だ」というものです。この点について、私はデータが足りないという意見には全く同感ですが、軌道修正するには早すぎるという意見には反対です。
そこで、数理最適化における2つのフレームワークを参考にしたいと思います。1つは、epsilon greedy(*1)という強化学習最適化アルゴリズムです。
例えばカジノに行き、10種類のスロットマシンを見せられたとしましょう。
あなたは、これらのスロットマシンにはそれぞれ異なる報酬パターンがあることを知っています。最初のうちは、どのような報酬が期待できるのか見当もつかないので、適当に1台を選ぶでしょう。これを「探索フェーズ」と呼びます。このマシンの前に少し座ってレバーを引いて何が起こるか見てみましょう。
問題は、次のスロットマシンに移る前に「同じスロットマシンでどのくらい時間遊ぶか」という点です。
5回引く?10回引く?20回引く?epsilon greedyアルゴリズムでは「できるだけ初期段階で探索することが最適化戦略」です。データポイントは1つしかなく、将来の報酬を最大化するためにはより多くの情報が必要であるため、マシンを変更していくことが重要なのです。これは今の1.2%Taxの状況に似ていると思います。「データが十分でないからこそ最適解を求めて探求し続けることが重要」だと思います。
それは正しくない言われる方もいらっしゃるかもしれませんが、スロットマシンの違いについての情報はありますので、上記のシナリオは完全な同義ではありません。
そして実際、私よりも賢い人たちは、オンチェーンでの取引量の改善や、低税率のためのプロジェクト採用について、説得力のある経済的論拠を持っています。ここで、目的関数を最適化するために広く使われている2つ目の最適化アルゴリズムに行き着くのですが、このアルゴリズムは「gradient descent(*2)」と呼ばれます。
あなたが岩山の上にいて、山の麓(画像の中心)に行くことを目標にしていると想像して下さい。霧や曇り空なので周囲は数メートルしか見えませんがそれほど遠くはありません。さらに想像力を働かせて「大きな一歩を踏み出すことができる」と仮定してください。例えば1マイルの長さの一歩を踏み出すことも可能です。
gradient descentのプロセスは「周囲を見渡してどの方向に一歩を踏み出せば正しい方向に早く行けるかを探すこと」ですが、問題はどの程度の大きさの一歩を踏み出すかです。
見えるところだけを少しずつ歩けばいいのか?
自分の歩幅の半分程度の中程度の歩幅で進む?
それとも、急降下する方向に大きく踏み出す?
最適化理論では、最初のうちは大きな一歩を踏み出すべきです。なぜなら、この山はどこまで下りていくのか分からないのに、小さな一歩を踏み続けていたら、山を下りるのに途方も無い時間がかかってしまうからです。
gradient descentでは、最初の一歩(学習ステップサイズ)が一般的に最も大きく、山の風景を横切り続けるにつれて徐々に小さくなっていくのです。つまり、1.2%から0.2%への大きなジャンプについての私の頭の中の疑問は、これで解決されます。
多くの人は、Taxを下げることが坂道を下る正しい方法だということに同意しているようですが、これほど大きなステップを踏むことに躊躇している人もいて、バーン速度を極端に下げることになるのではないかと心配している人もいるでしょう。
個人的には、この大きな一歩は私の意思決定プロセスにおける最適化理論のモデルに合致しています。このTax変更に対する大きなデルタを使った早期探索は、ブロックチェーンのパラメーターの最適な報酬状態をより早く、より効率的に見つけるのに役立つと思うのです。
限定的なデータ分析
私の考えをまとめると、減税の議論には納得していませんし、税率を変更するには早すぎるとも思っていません。ですが、変更する際には大きなステップでの変更が正当化されると信じています。
私がこのように大きくパラメータを変更してもよいと考える理由は、何が起こるかを理解しているからではなく、むしろその反対であることを強調しておきます。
私は「何が起こるかわからない」ということを認めているのです。
私たちは未知の領域にいるのですから、開拓するよりも探索し、小さな一歩を踏み出すよりも大きな一歩を踏み出すべきでしょう。とはいえ、現時点では分析可能なデータがいくつかあり、それが最終的な決め手となりました。過去23日間(1.2%課税開始以降)のオンチェーン取引量を見ると、以下のような傾向があります。
青い線は、平均二乗誤差(*3)を用いたオンチェーン取引量の単純な線形回帰分析(*4)で、基本的には最良適合の線を表しています。
右肩上がりは上昇トレンドを示し、右肩下がりは下降トレンドを示します。これまでのすべてのデータを考慮すると、オンチェーンボリュームは負のトレンドにあります。短期的な傾向は何か違うことを示しているのでしょうか?
確かに、使用するデータを今日に近づけると 線形回帰線の傾きがプラスに反転(画像内の緑の棒グラフ)していることが分かります。これは、オンチェーンボリュームが上昇傾向にあるように見える日が3日間あったことを示しています。
しかし、その後反転してマイナスに戻ってしまっています。
このことから分かるように「待てばボリュームが回復する」という主張は、私の限られたデータ分析では意味を持ちません。
さらに、StrathCole氏(@ColeStrathclyde)による最近のチェーン分析では、取引量の減少は中央集権型取引所(CEX)での取引でほぼ説明できるため、取引量が回復するのを待つというのも考えにくいとのことです。
まとめ
私はどちらの主張にも懐疑的であり、自分なりに調査をしました。このような判断をする際には、特定の考えにそのまま乗るのではなく、皆さんも同じように考えることをお勧めします。私はどちらかを擁護しているのではなく、私個人の判断の背後にある理由を述べているのです。
すべてのデータを検討し、知っていることを熟考し、知らないことを認識した後、提案5234に賛成票を投じました。
『Terra Classic Proposal 5234』の原文はこちら【LUNC】税率引き下げ&貢献者への支援|Akujiro
この記事はAkujiro氏によって公開されたProposal:5234『税率を0.2%に引き下げ&開発者たちへの支援』の内容を日本語訳した記事となります。貢献者たちへの資金支援をし、Terra Classicの開発をすすめる提案です。
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