※この記事は、Terra Classicチェーンの著名なバリデータであるDuncan氏(@wrapped_dday)が2022年12月15日に公開した提案『Modify Luna Exchange Rate with Novel Fee Variable (Discussion // USTC Re-Peg)(LUNC交換レートを「新たな変動型手数料」に変更|USTCリペグ提案:Duncan)』の内容を日本語訳した記事となります。
免責事項:提案者Duncan氏について
私は、PFC(@PFC_Validator)の支援を受けながらバリデータ「Onyx validator」を運営しています。現時点では TFL(Terraform Labs)や、Terra Rebels やTerraCVitaのような主要組織とは正式な提携関係を持っておらず、暗号エコシステムを独学で学びながらソロで活動しています。
この提案は、USTCのリペグ提案に関する議論をスピードアップさせることを意図しており、より技術的な濃い内容になっています。各セクションにある「具体的な説明」を参照しながらこの提案の理解を深めていって下さい。
また、この情報のすべてが正しいとは限らず、ほとんどの引用は Investopedia(金融メディアサイト)および Terra Classic Docs から引用しています。
バリデータの方はコード面のチェックを、クオンツの方は数学面からのチェック・分析をお願いします。
USTCのリペグに向けて|今回の提案概要
これは、あくまでUSTCのリペグプランのための議論であり、オラクルによる価格フィード(報告)によってLUNCの交換レート変更を行う提案です。この提案は、現在のゼロクーポン(*1)であっても、いかなる割引価格でもUSTCの裁定取引(*2)を促進するための出発点となります。
そのためにはオラクルモジュールの利用方法を変更する必要があり、アクティブなバリデータセット間の完全な協力、そして、それが誠実に行われることの保証が必要です。また、オラクルフィードの変更は危険なゲームです。バリデータセットに参加する人のために、外部オラクルが提供する価格フィードの第三者によるリアルタイム監査を、バリデータセット内の履歴データベースとして提供することが賢明です。
LUNC為替レート変更の重要性
ブロックチェーン上での不安定な送金は、金融を含む多くの種類のビジネスにうまく対応できない不安定な環境を作り出します。安定した商品であっても、インフレや税金のような外部要因による変動はありますが、これらはある程度の予測が可能であり、その環境の構成要素によって想定されます。
Terraの アルゴリズムマーケットモジュール によって無担保で新しい通貨を発行していました。元々は「$1相当のLUNA」を「$1相当のUST」と交換することが可能で、同様に他の外国為替通貨とも交換することができました。
暴落時のインフレによりミントモジュールを通じて新しいトークンを導入しましたが、LUNCのハイパーインフレとその後の持続的な ディペグ の原因となった主な機能は「シニョレッジ(鋳造した通貨の額面と原価の差額)」、つまり、ミント(鋳造)と バーン による価値獲得の仕組みでした。シニョレッジのコアパラメーターを変更しない限り、我々が充填するよりも早くオラクルプールが枯渇してしまいます。
私たちのTerra Classicチェーン上に安定した送金ができなければ、消費者向けビジネスの環境を提供することは困難と言えます。UST / Terraの目標は、無担保のアルゴリズムトークンが繁栄できる環境を作ることであり、そうでなければ完全担保や過剰担保のソリューションに追いやられ、それぞれ裏付けを集中化させたり、過剰なセキュリティを施す必要が出てきます。そのため「この理想を実現するためのメカニズムやコントロールが可能な環境を構築することが私たちの最大の利益」となります。
LUNC交換レート変更提案の詳細
LUNCの為替レートを柔軟に変更し、ホワイトリスト内のオラクルデノムが既存のクロスマーケットレートを上回る、または下回るプレミアム、もしくはディスカウントで取引できるように調整します。
【具体的な説明】
USTCをCEX(中央集権取引所)などの他の市場よりも高い価格で販売し、ペグ を上回るトレンドが発生した場合は他の市場より割安な価格でUSTCを販売します。これは「リフレックス・レート」と呼ばれ、この関数を反転させることもでき、後で変更可能な手数料を作成することで行うことができます。
USTCがほとんどの取引所で$0.02で取引されているとした場合、税率は0.2%で、このうち50%がオラクルプールに送金されます。「±0.4%」のように報告された価格に修正をかけ、任意のプレミアムまたはディスカウントで価格設定することが可能となります。このケースであれば、USTCは$0.02ではなく、$0.02008(0.02 × 1.04%)で取引されることになり、BINANCEから10,000 USTC($200分)を送金した場合、他の手数料を考慮しなければ最終的に手元に残っている資産は$200.80となり、総利益は$0.8となります。
LUNC交換レート変更におけるリスク
この提案には、バリデータの誠実さ、ひいてはセキュリティに関連する固有の潜在的なリスクがあります。現在、より大きなコミュニティはオラクルプール報酬に関して存在するフリーライダー問題(*3)を痛感しており、これによって現時点では、報酬分配Window によって決定されるように「委任者に対して事実上リスクのない極めて高い利回りが促進」しています。これはデフォルト値として2年間の限られたランウェイとなっており、独自のリスクを伴う代替案がほとんどない状態です。この特定の提案には、投票をする際にシビル攻撃(*4)によって不正が行われるリスクが存在しています。
オラクルモジュールは価格フィードに対し、本質的に 投票のルールに沿った手続き を行うことで機能します。すべてのバリデータは、ホワイトリストされた3種類の通貨単位(デフォルトでは「UKRT」「UUSD」「USDR」)の価格を提出します。この投票が各バリデータによって行われた後、価格が公開されてブロックチェーンは 相互交換レート を計算し、それらの価格は Market Swap Computes で使用されます。
最も簡単な例えは「ポーカーの仕組み」です。プレイヤーは自身のハンド(手札)にベットし、ベットが確定するとプレイヤーは自分のハンドを公開し、最も強い役が揃ったハンドのプレイヤーがそのラウンドを勝ち抜きます。この場合、バリデータは MsgExchangeRatePrevote を使用してホワイトリストされた通貨(KRTC、USTC、SDT)に対してPrevote(事前投票)を行います。このMsgExchangeRatePrevoteは、TerraのステーブルコインであるUSTCなどに対するLUNCの為替レートを"ソルト"と呼ばれる「ランダムなデータ暗号化メカニズム」によって暗号化します。
ソルトは事前投票で使用される「関数VoteHash()」から計算され、その後MsgExchangeRateVoteを通じて投票そのものが計算されます。事前投票のソルトパラメータが一致しない場合、投票者は報酬を得ることができません(オラクルプールから払い出しを受けることができない)。このプロセス全体は"VotePeriod"と呼ばれ、約5ブロック(約30秒)です。
これを軽減するために、Mirror Protocolのサービスに使用されていたBand Protocolのような外部のオラクルプロバイダに事前投票の履歴データを送信することができ、不正なオラクル操作を試みた証拠があった場合、バリデーターは最大100%削減されます。
【具体的な説明】
バリデータはポーカーの"テキサスホールデムゲーム"をプレイしているとイメージしてみて下さい。前提として、各プレイヤー(バリデータ)は不正行為をしていないという暗黙の了解があります。ですが、配られたデッキの外に存在するカードを用いて不正を行う人が多かった際にこの提案はより多くの経済的な影響を生み出し、不正を防ぐような役割を果たすと考えられます。
財務面の詳細
バリデーターが他のどこよりも意図的に高いまたは低い価格を報告した場合、さまざまな参加者に損害を与えたり利益をもたらしたりする市場における裁定取引の機会を強制的に作り出していることを確認する必要があります。そのため、オペレーターの手数料のプレミアムやディスカウントを適切に設定しなかった場合、このメカニズムを使用することによって、Terra Classicすべての資産に負の価格リスクを生じさせることにもなります。
インセンティブの試練
これは素晴らしいことのように思えますが、もし現在の税率を0.2%、報酬ポリシーを50%とすると、このオファーを販売するためには高いプレミアムを適用しなければなりません。我々のプロトコルは現在MsgSend(オンチェーン課税におけるウォレットから別のウォレットへの転送)に課税しており、CEXの場合は課税が2回発生することを理解しておいて下さい。
オーダーフローの例
例1
アリスはBINANCEから$0.02の価格のUSTCを$200分(10,000 USTC)購入してTerra Classicに送ります。このときのプレミアムは+1%とすると、アリスはこの送金に対して0.2%(20 USTC)を支払うことになります。
USTCが着金したら、アリスはすぐにUSTCをスワップすることが可能で、例えば、このUSTCをLUNCにスワップすることができます。USTC / LUNCのスワップレートが1:100であれば、彼女は1 USTCに対して101 LUNCを手に入れ、0.2%のTaxを払い、0.1%はBurnに、残りの0.1%は報酬プールに送られます。
そして、アリスはそれをBINANCEに再度送金することができ、そこで2回のTaxを支払うことになります(1回目は我々のチェーンから、2回目は送金されるとき)。この一連の送金で合計「Tax 0.6%・Burn 0.3%・報酬プール0.3%」に回されることになります。
これは理想的な流れです。ですが、ここで問題なのは「プレミアムを高く設定しないとこのルートを実行する意味がない」ことです。
例2
アリスは$200.00を受け取り、0.075%の手数料を払ってUSTCを購入します。彼女はBINANCEに$0.15を支払い、$0.02の価格のUSTCを$199.85分購入して9,992.50 USTCを取引します。
その後、アリスは0.2%のTaxを支払ってTerra Classicに送り、この取引で19.985 USTCを支払って9,972.515 USTCが手元に残ります。
そして、アリスは着金したUSTCをすぐにLUNCにスワップします。このときのLUNC価格が0.00017ドルの場合、レートは1 USTC = 117.647059 LUNCとなり、アリスは0.5%のスプレッド手数料と、〜0.10 USTCの標準計算手数料を含む、完全なスワップに対して0.2%のTaxを支払っていることになります。1,173,237.058823 LUNCは8,212.659411 LUNCのTaxを必要とし、それを差し引くと1,165,024.399412 LUNCとなります。
アリスはこの金額を再度BINANCEに送金し、送る分と統合手数料の2回課税されることになります。これにより4,660.097598 LUNCが差し引かれ、アリスには1,160,364.301814 LUNCが手元に残ります。
アリスがこの裁定取引をUSD(米ドル)に直接クローズすると仮定した場合、購入時と同じLUNC価格である$0.00017で売却して最終的に$197.26で着地することになります。
この特定のルートが持つ唯一の利点は、BINANCEとTerra Classicが多額のTaxを手に入れることです。私たちがインセンティブを与えようとしている人たち以外の全員にとって素晴らしいことです。しかし、これは我々の望むことではありませんので、私たちは手数料を徴収しながら「裁定取引を行うユーザーが利益を得られること」を保証するために十分に高いレートを設定する必要があります。
柔軟性のあるレート設定
一律にプレミアムやディスカウントを高く設定することはできません。例えば、長い目で見てペグから2%しかずれていないのにも関わらず、一律に+6%のプレミアムを適用してしまうと裁定取引にお金を払っていることになりますのでこれは理想的ではありません。
その代わり、ビジネスとして参入させ「ペグに近い状態」を維持しながら裁定利益をすることで、何らかのリターンを生み出すことができます。しかし、一度にどれだけ売却できるかも不明で、例えば、100の企業が参入してそのすべてがUSTCを利用して顧客に販売しているとした場合、1社が10億を超えるUSTCを所有するとした際にその価格ショックに耐えられるのかは不透明です。
もう一つの選択肢は「Reflex Rate」と呼ばれるミント & バーン向けの柔軟な料金体系について、私の事前調査を掘り下げることです。これは、Terra <> Lunaに見られるような通貨の特性を、シニョリッジ(造幣)とデマレッジ(焼却)という二つの主要な概念を通して価値を捉える複雑な一連の数式です。
議論によって基本的な考え方が魅力的だということになれば、この選択肢をもっと探ってみることも可能です。
Duncan氏による個人的な見解
このアイデアは面白そうであり、私のReflex Rateに関する研究とよくリンクしているということもあり研究したいと思いました。しかし、私は近道をすることに抵抗があり、オラクルの投票方法を変更することは現時点では近道のように感じますが、この機能がどのように機能するのかそのプロセスを振り返ってみたいと考えています。
このソリューションは、膨大な時間とエネルギー、そしてリサーチが必要となりデータがなければ実装する意味がありません。また、オラクルのベースコードを変更するという点で慎重に行うべきテーマです。
『Modify Luna Exchange Rate with Novel Fee Variable (Discussion // USTC Re-Peg)』の原文はこちら